「見えないルール」作りが上手い人はどこにいる?
iPhoneに説明書がないことは有名ですが、そもそも携帯電話の説明書は分厚いのが当たり前だったのに、遥かに機能性の高いiPhoneに説明書が無いのはどうしてなのでしょう。
よく言われることですが、それは入力画面(ユーザーインターフェイス:UI)のデザインが分かりやすく作られているからとされています。
「このアイコンを押せばきっとこれが動くんだな」と直感的に分かるデザインに作られているということですね。
ところで、この説明書いらずの製品を作ったのは一体どういう人達なのでしょう?また、身近なようで実体の掴みにくい、この "デザイン" とはどういったものなのでしょうか?
ここでSuica改札機の開発で有名な山中俊治氏のTweetを紹介します。
自分の快感が他人に共感されるかどうかを試すのが芸術。共感されることを確かめてから作るのがデザイン。
(山中俊治の「デザインの骨格」もお勧めです)
妹が芸術家の自分としては非常に頷ける内容なのですが、このデザインというものについて、少しばかり歴史を辿ってみたいと思います。(箱根ラリック美術館に行った時に歴史を学んだのですが、間違ってたらごめんなさい)
インダストリアル(工業製品)デザインが始まったのは1900年頃のアール・デコの時代。それまで一点豪華主義、特権階級のためのデザインだったアール・ヌーヴォー時代に変わり、第二次産業革命の大量生産技術によって生まれた、(中流)市民のための製品デザインが先駆けでした。
(ラリックの香水瓶デザインも有名ですが、食器や家具はもちろん、エンパイヤステートビルなどの建築物まで幅広いデザインが行われました)
この時代のデザインは今とは違い表装的な意味合いが強く、控えめとはいえ美しい装飾が中心。しかし科学の発展とともに、先進的な機能を実現しながらも、使い勝手と美しさを両立することが求められるようになっていきました。
しくみを考えたり作り方を考えたりするのもデザインなんです。それを考えないで「自由に発想した」デザインは、たいてい妄想に終わります。
それまでの時代の製品と異なり、デザインが機能と密接に関わり合う現代の製品は、デザイナーにエンジニアの知識を要求し始めました。工業製品はもちろんですが、自分がいるIT業界でもそれは顕著で、特にウェブデザインがその代表ではないでしょうか。
それについてウェブデザイナー上杉周作氏の2年前の記事が分かりやすかったので紹介します。
"デザインとは、「見えない決まり」を作るということに集約されます。エンジニアが開発したものを営業が売る前に、見えない決まりを作って売りやすく形を整えてあげるのがデザイナーの仕事なんです"
「気持ちのいい環境」を作るのに必要なことは?
貼り紙だらけのキャンプが、説明書の分厚い過去の携帯電話だとすると、「見えないルール」をデザインして気持ちのいい環境を作るには、AppleがiPhoneを作った時のような"デザイン"の思想が必要ということになりそうです。
…なんてことを言うのは簡単ですが、このブログを読む限り、それはとてもハードルの高いことですよね。
話は少し飛びますが、iPhoneの販売台数に大きな差が開いてしまった携帯電話メーカーを始め、これまで日本の屋台骨を支えていた電化製品メーカーにこの"デザイン"の考え方があるのかと問えば、疑問を感じざるを得ない状況かもしれません。
もしかすると彼らは「自分の快感が他人に共感されるかどうかを試すのが芸術」というアートの領域に入り込んでしまったのかもしれません。(芸術家の妹を持つ兄としては、当然のことながら芸術の重要性も理解していますが、それゆえの苦労も知っています)
では、「見えないルール」を作るデザイナーは一体どこにいるのでしょうか?
また、この"デザイン"というのは、インダストリアルデザインだけの得意分野なのでしょうか?
見えない決まりや仕組みを作ることを"デザイン"と呼ぶならば、もっと別の世界にもデザイナーと呼べる人達がいるはずです。
【次回】ビジョナリーカンパニーの罠とデザイン